グレードダウンは困りもの

CMで『昭和歌謡大全集』が映画になるのを知ってびっくり。ちらっとCMで見た限り、主人公のオタク青年たちのオタク度が全然足りない。彼らの格好悪さやオタク度・非モテ度が表現できてはじめて、原作第4章「チャンチキおけさ」(だったと思う)で描かれた青年たちのバカバカしさと滑稽さと寂しさとが表現されうるはずなのに。
そんなわけで今回の映画が面白いかどうかは大いに不安だが、原作自体は俺的には村上龍さんの最高傑作だと思っている作品。といっても村上龍さんの本を全て読んだわけじゃないし『Ryu's Bar』を見てたわけでもないけど。まあ俺がいくつか読んだ村上龍作品の中では一番笑えて一番楽しめた作品であるのは確かだ。男たちが馬鹿騒ぎをしながら紙皿を割箸で叩く場面での「パシュ、パシュというセンチメントを排した響き」というような描写が印象に残っている。
あと、もしこの本に興味を持った人がいたら、できれば文庫版(ASIN:4087485676)ではなくハードカバー版(ASIN:4087801209)の装丁を1度見ていただきたい。俺はアナーキーアナクロなこの表紙の絵も含めたこの本が好きなので。まったく同じ絵で文庫化すればいいのにグレードダウンも甚だしい。
本って、本の内容だけでなく外見も含めて1つの「商品」あるいは「作品」なんだと俺は思う。「人間は外見より中身」とか言うけれど、少なくとも本に関しては中身も外見も重要。前者の重要性についてはいろいろな作家の作品から学んだつもりだ。後者の重みを教えてくれた要因は挙げれば片手に足りる程度で、辰巳四郎さんや平野甲賀さんの存在、あとは装丁家としての京極夏彦さんを加えると、次の4人目の名前がもう出てこない。